世界に届け、アジアからの‘多文化共生社会に生きる’提言と知恵!

2019-5-29

世界に届け、アジアからの‘多文化共生社会に生きる’提言と知恵!

(写真は5月31日発行の『多文化共生社会に生きる』と編著者)

李 修京(東京学芸大学 教授)

この5月、世界を跨って多文化共生教育と人権教育にかかわる57人の専門家たちによる共生への叡智を結集した待望の本が出版された。李修京編著、権五定・鷲山恭彦監修『多文化共生社会に生きる――グローバル時代の多様性・人権・教育』(明石書店、2019年5月刊、2500円+税)

本書の執筆者は全員、世界の様々な文化的動きを肌で体験し、今後のグローバル社会における多文化共生への望ましいあり方を模索する、この時代のオピニオンリーダー的立場にいる。

国際理解や国際協力、異文化理解や多文化共生について、これまで欧米社会から様々な理論的展開がなされてきた。本書は、それらの動きを念頭に入れながら、欧米社会とは異なる歴史や政治事情・経済・文化が独特の形で複雑に絡み合っている東アジア、特に100年の歴史を通して日本の住民として様々な社会的文化的影響を及ぼしてきた在日コリアンや、日系ブラジル人、中国残留日本人孤児をはじめ、バックグラウンドが異なる多くの人々が暮らす日本から世界に向けて発信された、多文化共生への提言である。ここには、共生への声と知恵が盛り沢山に綴られており、このグローバル時代における必読書と言えよう。

かつて肌色や民族、宗教、出身地などで見えない壁を張り巡らせて他文化圏出身移住民と距離をおいたり、色眼鏡で偏見や差別をしていた構図は、時代の本質的な流れとしては、すでに過去のことになりつつある。

世界的規模で人類の移動が激しい昨今、日本でも年間3200万人に肉迫する外国人観光客が行き来し、外国籍住民270万人が日々の生活を営んでおり、ルーツは異なっても日本に帰化した人も少なくない。他方、日本の少子高齢化問題は深刻な現状となっており、全国の空き家問題から、人口過疎化による限界村・廃村まで、都会を少し離れて地方に行くとその実態がすぐわかるほどである。地方都市の駅前商店街にはシャッターを下ろしている店や人の足が途絶えているところが少なくない。

国家動力となる人材不足で100歳時代の‘エイジレス活躍’を政策として唱えながら高齢労働者の確保にも力を入れてはいるものの、その限界は避けられず、介護や建築・造船、農業、宿泊業などのハードな仕事を担える労働力は絶対不足状態である。そのため、いよいよ外国人労働力を誘致するための福祉基盤作りに本腰を入れなければならなくなっている。

本書が随所で指摘しているように、列島日本でも多文化社会化は各地で進んでいる。日本の至るところで外国にルーツをもつ人々が働いている。他文化と共に生きること、それはプロサッカーやプロ野球や日本の伝統として誇っている相撲界でもとっくに始まっている。それが身近な生活環境に展開しているだけである。そのリアリティーを無視ないし軽視する動きはむしろ時代逆行にほかならない。

そのような多文化社会の中で共に生きるためにどのような基盤を用意すべきか。様々な違いや衝突し得る問題を知恵を絞っていかに解消ないし対応すべきか。‘違い’を‘違い’として認めること、77億の人口ほど個性があること、そしてこのことへの理解は決して他者のためではなく、このグローバル時代に生きる自分のためにも必要であること。そのような多文化共生社会に生きることについて、本書は丁寧に、世界と日本の様々な事例を掲げながら教えてくれる。

多文化共生社会を多岐にわたって究明する本書は机の理論ではなく、生きた現実を踏まえた実践的な理論を提示している。そのため、重厚な内容になっているが、非常にわかりやすく目に入ってくる。ぜひ手に取って読んで頂きたい一書である。

本書の目次は以下の通り。

目次
まえがき
●序 章
1 多文化共生社会の構築に向けて―課題と展望
2 平和を脅かす暴力を克服して人権を守り抜く

●第1章 多文化共生社会のための人権意識
1 国連による人権保護・伸長のための構造
2 共生と社会の正義を模索してきた人類の知恵から人権保障へ
◦コラム 国際社会の人権に関する動き
3 レイシズム―手を変え品を変え人の心に食い込む
4 ‘〇〇人’以前に、この時代に生きるʻ命ʼとしての尊厳
5 障害・遺伝性疾患のある人 ―生まれてこない方がよかった?
6 「障がい者スポーツ」がなくなる日まで
7 男女両性が支え合う平等社会へ
◦コラム 映画『マルタのやさしい刺繍』 ―男女同権について考える
8 地球温暖化と人権
9 原子力と基本的人権 ―福島第一原発事故の教訓
◦コラム 「安全保障」概念の解体構築
10 移民・難民の対応に見る「多文化共生」のもろさ
11 難民の時代に市民教育を考える
◦コラム アメリカ合衆国で「復権」するドイツ系移民
12 多文化共生社会への道のりと多文化教育 

●第2章 世界各地の多文化共生社会への眼差し
1 過去と向き合うスイス ―理想化された自画像を克服するために
2 現代における紛争解決の理論的地平
◦コラム 戦時に遭った人たち
3 抵抗について考える
4 子どもは未来である ―児童労働・難民・貧困・人身売買・子ども兵
◦コラム 難民キャンプで考える
5 中国における流動・留守児童の教育問題とその解決 ―社会からの支援を中心に
◦コラム 中国における留学生事情
6 イスラームについて知る―イメージの乖離?
◦コラム 「人間を食らう牛」
7 宗教と寛容―『法華経』を中心に
8 砂漠に吹く新しい教育の風 ―ダルバーリー自由ヴァルドルフ校の試み
9 日本の文学と映像作品における在日コリアンの表象
◦コラム 多文化社会の音楽 ―オーケストラの指揮者として考える
10 アロハの心とともに生きる
◦コラム 「雑魚」とみなされがちな魚の利用からみた多文化
11 多文化都市のトロントに生きる
◦コラム キムチがつなぐ日本と韓国―キムチづくりのワークショップから
12 韓国における「学生人権条例」制定をめぐる論争と学生の人権問題―文化的アイデンティティを理由とした差別の禁止の意義
13 国境を越えるスポーツ文化―サッカーを中心に

●第3章 日本の多文化共生社会への眼差し
1 日本の人権教育
2 外国人集住地域における多文化共生の今とこれから ―ブラジルタウン群馬県大泉町を参照例として
◦コラム コンビニから日本の多文化共生を考える
3 大学における多文化共生に向けた実践活動報告 ―国際交流活動、多文化共修科目、ヒューマンライブラリーを中心に
◦コラム 首都圏に居住する中国朝鮮族の子どもの言語学習環境―東京泉(センムル)学校を中心に
4 在日の視座―地域住民として
◦コラム ‘コリアン’としてのアイデンティティの3つの軸
5 『星夜航行』(飯嶋和一)を読む
6 言論・インターネットによる被害と人権
7 ヘイトスピーチ―排外主義に抗し多文化共生社会志向するために
8 セクシュアル・コンセント概念と啓発への提言
◦コラム 他者への敬意―ドラマ『おっさんずラブ』を観て
9 基地の街・朝霞から見えてくる日本と世界
10 難民をめぐる諸問題―日本のクルド難民を中心に
◦コラム 横断歩道を渡れない残念な歩行者たち
11 多文化共生社会における日本人と宗教
12 単なる共存から、真の共生に向かって ―村里に見る多文化共生
13 多文化共生の観点から観るネパール人留学生の実態―福岡を事例として
14 文化接触地帯(contact zone)の教室―日本と韓国の教師の語りから
15 高齢者の終の住処と人間としての尊厳 

●第4章 多文化共生のための教育
1 人権・人権教育と世界市民教育 ―国連とユネスコの活動を中心に
◦コラム 多文化時代の平和と人権のための歴史教育
2 「教権」の危機と対応をめぐる問題 ―韓国の事情を中心に
3 「教室」の中の多文化共生を考える
4 障害学と障害文化の観点から見た障害者の人権教育
5 博物館を利用した多文化教育
◦コラム 博物館の多文化教育プログラム
6 共生をめざす音楽教育―文化の変容と創出を営む学習へ
7 漢字使用圏における多文化共生 ―漢字の名前をめぐって
8 ‘性の多様性・性の平等’を認め合う人権社会へ
あとがき 

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