トランプ大統領の弾劾手続始まる…貿易戦争・大統領選勝敗の分岐点となるか

トランプ大統領の弾劾手続始まる…貿易戦争・大統領選勝敗の分岐点となるか
-当面の間は米国経済に大きな影響無いとの見方
-中国、貿易交渉から手を引くか
-トランプ大統領が貿易交渉を進める可能性も
米国のドナルド・トランプ大統領に対する米下院の弾劾手続が始まり、米国経済や株式市場、中国との貿易交渉、来年の大統領選挙などにどの様な影響を与えるかが最大の関心事として浮上している。
専門家らは弾劾が実際に現実のものとなる可能性は低く、米国経済や株式市場に与える影響も極めて制限的であると予想している。しかし今回の弾劾が米中貿易戦争の悪化に結び付いたり消費鈍化をもたらした場合、また来年の大統領選でエリザベス・ウォーレン上院議員やバーニー・サンダース上院議員など企業寄りでない候補者らの当選の可能性が高まった場合、米国の長期に渡る好景気と強気相場も終わる可能性がある。
■弾劾は経済ではなく政治的な事案
CNNビジネスは25日、専門家らの言葉としてトランプ大統領に対する正式な弾劾手続が始まったものの、今すぐに大きな衝撃とはならないだろうと報じた。
この日、ホワイトハウスが公開したトランプ大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との通話記録によると、トランプ大統領はウクライナに対し、ジョー・バイデン前副大統領と息子の不正に関する調査を度々要請していた。これについて米国メディアはトランプ大統領の調査外圧疑惑が事実として表面化したと報じた。通話記録はA4用紙で5ページに及んだ。
しかし下院の弾劾手続開始は当分の間、経済にこれと言った影響を与えないだろうとする見方が優勢だ。調査会社ヘッジアイ・リスク・マネジメントのリサーチ責任者ダリル・ジョーンズ氏は「市場が短期的に動揺する事はあるが、これは経済に根本的な衝撃を与える様な事案ではなく、政治的な事案だという事に気付くだろう」と、市場には影響を与えないとの見方を明らかにした。
トランプ大統領の弾劾手続開始が分かった24日、NY株式市場は下落したものの、弾劾手続開始は悪材料の中のひとつに過ぎず、弾劾の確実な根拠となる通話記録が公開された25日には、むしろNY株式市場の3大指数全てが0.6%を超す高い上昇で取引を終えている。民主党が過半数以上を占める下院で弾劾が可決されたとしても、上院議員の3分の2以上が弾劾に賛成しなければならないため、弾劾が現実のものとなる可能性は非常に低いという点が、投資家らの動揺を抑えている主な理由だ。
■貿易戦争への影響
しかし米国経済や株式市場に最も大きなリスク要因だと考えられる米中貿易戦争に弾劾手続開始が影響を及ぼし始めれば話は変わる。トランプ政権が弾劾手続開始により力を失ったと判断されれば、中国が貿易交渉から手を引く可能性もあるためだ。来年の米国大統領選で新たな政権が誕生すれば、より有利な条件で交渉出来るという期待感が中国を動かし、貿易戦争はその時まで深刻化し続け、経済や市場に深刻な衝撃を及ぼす可能性もある。
コーエン・ワシントン・リサーチ・グループのクリス・クルーガー常務は「弾劾スキャンダルのせいで、ホワイトハウスが貿易交渉に集中出来なくなる」と指摘した。米中どちらも貿易交渉に集中しない可能性が高まっているとの意見だ。
逆に弾劾スキャンダルがトランプ大統領を貿易交渉へと追い込むとする全く別の見方もある。来年の大統領選に向けて状況を覆すべく、トランプ大統領が中国との歴史的な貿易協定に臨むとの見方だ。そうなれば米国経済と市場には大きな好材料となり再び上昇に転じるとみられる。
■ニクソン大統領時代は急落、クリントン大統領時代は上昇
リチャード・ニクソン大統領とビル・クリントン大統領が弾劾に直面した際の株価は、弾劾スキャンダルが市場に及ぼす影響は限定的である事を示唆している。1974年、弾劾が確実視されるとニクソン大統領は辞任し、株価は大幅に下落した。しかしこの時は既にNY株式市場が下落相場に突入していた状況で、経済はOPEC(石油輸出国機構)の原油輸出制限によるオイルショックと供給ショックによる高インフレーションで苦しめられている時期だった。弾劾はネガティブな影響を及ぼしはしたものの、下落相場の主な理由にはならなかった。
クリントン大統領の際は、大統領とホワイトハウスの実習生モニカ・ルインスキー氏との性スキャンダルが表沙汰になった1998年1月から弾劾手続が始まり、翌年2月に上院がクリントン大統領に対し免罪符を与えるまで、NY株式市場のS&P500指数は逆に28%上昇した。
翻訳:水野卓
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