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地下鉄サリン事件 被害者カルテの電子保存へ 医師の口述記録も作成

1995年3月に東京都心で発生したオウム真理教による地下鉄サリン事件の被害者カルテなどについて、政府は電子化して保存する方針を決定した。資料の散逸を防ぎ、未曽有の化学テロへの対応の教訓を後世に伝えることが目的である。また、当時治療に当たった医療関係者から聞き取るオーラルヒストリー(口述記録)も作成する。

政府関係者によると、電子化されるのは被害者のカルテや救急搬送の記録などの医療資料で、現存する紙の記録はそのままデジタル化される。多くの医療機関では既に廃棄されたとみられるが、少なくとも1000人分程度のカルテが現存しているという。後遺症により現在も治療を受けている被害者の診察記録についても保存を検討する。

さらに、事件直後に被害者の搬送や治療に携わった医師や看護師、消防職員らから当時の対応について聞き取りを行い、アーカイブ化を進める。2024年12月に成立した2024年度補正予算には、関連事業費として約400万円が計上された。厚生労働省は2022年以降、800万円程度の予算要求を続けてきたが、実際に計上されたのは今回が初めてとなる。今後は、被害者の個人情報に配慮しながら電子化された記録の活用策を検討する。

地下鉄サリン事件の診療記録をめぐっては、2019年7月に超党派の「オウム真理教対策議員連盟」が政府に対し、データベース化による適正な保存を要請。これを受け、厚生労働省は2020年2月に大学教授や当時被害者を治療した医師らによる研究班を設置した。

研究班は、事件当時に被害者を診療したとみられる39の医療機関に対しアンケートを実施。回答のあった14機関のうち、カルテを保存していたのは6機関にとどまった。医師法に基づくカルテの保存期間が5年間であるため、多くの機関で廃棄されたとみられる。

2022年に研究班がまとめた報告書では、「化学テロに対する危機管理能力向上のための貴重な財産」として、診療記録のデジタル化やオーラルヒストリーの作成が提言されていた。

研究班代表である日本中毒情報センターの奥村徹理事(62)は、「地下鉄サリン事件の治療ではさまざまな薬が使用されたが、後遺症の軽減に寄与したのか、それとも影響がなかったのかは明確ではない。関与した医療関係者も高齢化しており、後世の人々が分析できるよう記録を残すことは次世代への責務だ」と強調した。

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