EUとイギリスの焦点‟バックストップ”とは?

EUとイギリスの焦点‟バックストップ”とは?
現地時間の12日、苦しみながらも信任投票を終えたテリーサ・メイ英総理大臣は、翌日に開かれる欧州連合(EU)会議に出席するため準備を始めた。彼女が持ち帰らなければならない最も大きな課題は、自国の議会を安心させる保証。彼女がブレグジット(英国のEU脱退)を果たすためには何よりも‟バックストップ(安全策)”に対する明確な保証が必要なのだ。
約2年間のブレグジット交渉でバックストップ条項が最大の争点になった理由を理解するには、まず過去に立ち戻らなければならない。1801年に英国に併合されたアイルランド。第一次世界大戦を経て着実に独立運動を続け、1949年には完全な独立を果たした。
しかし親英派の多かった北アイルランドは英国に留まり、アイルランド共和軍(IRA)を含む武装団体はアイルランドの統一に向け英国との間で激しい闘争を繰り広げた。多くの犠牲の末、1998年にベルファスト協定を締結。独立アイルランド共和国は北アイルランド6州に対する領有権を放棄し、その代わりに英国がアイルランドと北アイルランド間の自由な通行と貿易を約束した。両国共にEUに加盟していたため協定は問題なく続いた。英国が2016年にブレグジットを決定するまでは。
ブレグジットが実現すれば英国はEU加盟国ではなくなるため、加盟国であるアイルランドとの間には検問所及び税関を設置し、通行を制限しなければならない。これはベルファスト協定に反する措置と言える。それだけでなく、北アイルランドとアイルランドの境界は一日平均4万人が行き来する地域であり、新しい境界が生じれば経済的な打撃も大きい。
EUと英国は利点を考慮し、ブレグジットの合意案にバックストップ条項を盛り込むことにした。ブレグジット履行期間が終わる2020年末までに双方が適切な貿易協定を締結できなかった場合、代案が登場するまでは北アイルランドにEU 関税同盟と単一市場を適用するという内容だ。
問題はバックストップが発動した場合、北アイルランドのみがEU単一市場に属してしまうという点だ。これは事実上、北アイルランドと英国本島の間に新たな国境線が生まれることになる。さながら東京から九州に行くためにパスポート検査や税関の検疫を受ける形だ。英国はこれが主権を侵害しているとして強く反発し、英国全体をバックストップに入れるよう主張したがEUがこれを拒否した。ここ数カ月に渡りてんやわんやだった英国は結局、EUと本島、北アイルランドが全て入る臨時共同関税区域を作る条項をブレグジット合意案に追加し、先月EUと共に署名した。メイ首相は、同じ関税区域に入り同じEU規定に沿って貿易を行えばバックストップには大きな意味がないとして、議会を説得できると思ったのだろう。
しかし実際の英国会議は荒れた。ジェフリー・コックス英法務長官は今月5日、バックストップが発動された際EU 単一市場に入っている北アイルランドとただ臨時共同関税区域に参加しただけの英国本島では法的地位が異なると指摘した。英国は原則としてEU単一市場ではない‟他国”である。EU単一市場に属する北アイルランドとの貿易や通行で不利益を被ることになっても、阻止する手立てはない。メイ首相が出した臨時共同関税区域には、法的地位に関する内容がない。一つの国家内で地域ごとに地位が異なるような体制では、今後米国などと新たに貿易協定を結ぶことは難しいだろう。
またバックストップを終わらせるためにはEUと英国の双方合意が必要となるため、英国だけが抜けることはできない。合意案には別途満了期間についての表記は無く、ブレグジット支援派は「英国をEUの永遠なる植民地にした」とメイ首相に反発を示している。
弱り目に祟り目とはまさにこのことで、EUに残りたがっているスコットランドが「バックストップで北アイルランドだけが利益を得る」とメイ政権に不満を表した。一方で当事者の北アイルランドも「英国本国と分離ができない」としバックストップを拒否している。それこそ全ての国が反対しているというわけだ。来月21日までに合意案の練り直しが必要となるメイ首相。果たしてその行方は。
翻訳者:M.I