[ワールドリポート] やはり分裂したイタリア

[ワールドリポート] やはり分裂したイタリア
昨年6月に第2次世界大戦以降初めて、西ヨーロッパ最初の大衆迎合主義(ポピュリズム) 政府がイタリアに誕生。欧州各国に衝撃と驚きを与えた。あれから14ヶ月が経過した今月、ポピュリズム政府が解体されることになり欧州には再び激震が走ったが、驚きはなかった。誰もがこうなることを予想していたからだ。
イタリアの国民は、2018年3月の総選挙で、ポピュリズムと反体制を公約に掲げた政党を選択した。慢性的な経済難と腐敗に嫌気が差し、また中東からの難民を放置する既存政権への不信感が大きかったためだ。政局の主導権は32.22%の票を獲得した「五つ星運動」と、右派政党の中で最高投票率(17.69%)を達成した「同盟」に与えられた。
2009年に発足した五つ星運動は、インターネット主体の活動で直接民主主義を重視する政党だ。ユニバーサル・ベーシックインカムなど左派色の強い公約を掲げ、貧しい南部地方で支持を広げた。一方の同盟は1989年に発足した極右政党で、2015年の難民危機以降に多くの支持を獲得。欧州連合(EU)とユーロ圏(欧州連合に加盟しユーロを導入している19カ国)を批判し、反移民を主張しながら右派勢力の有権者を集めた。
両政党は交渉の末、五つ星運動のルイジ・ディマイオ代表が副首相と労働相を務め、同盟のマッテオ・サルビーニ代表も副首相や内務相を務めるという条件の下に、法学部教授出身で政治経験のないジュゼッペ・コンテ氏を推薦することで合意した。
両政党は一見すると正反対のようで、実は共通点が多い。まず、双方ともEUの要求する緊縮財政と難民受け入れを拒否しており、EUに同調した既成政治を非難した。また低所得者層への支援や税制改正、親ロシア政策には相互同意している。早くに政権を握りたかった両党は、こういった数少ない共通点だけを軸に連立を開始したのである。
しかし、すぐに均衡は崩れ葛藤が表面化した。同盟は2018年6月の地方選挙で躍進、中道左派の地盤だった選挙区の一部で勝利を収めた。サルビーニ氏はその2ヶ月後、司法のあり方をめぐりディマイオ氏と真っ向から対立することになる。同盟は今年3月にも、長らく中道左派が不動を握っていた南部バジリカータ州知事選挙で勝利。今年5月の欧州議会選挙では34.3%の票を確保して17%の得票率にとどまった五つ星政党を圧倒した。そしてサルビーニ氏は今月、伊仏高速鉄道(TAV)建設に反対する五つ星運動との決別を宣言し、連立政権の解消を示唆した。
新興インターネット政党の五つ星運動は、ありとあらゆるバラマキ政策を掲げたが地方掌握に失敗し、内閣の人選でも適する候補者を擁立することができなかった。また、五つ星運動は環境主義を中心としてきたが、約束していたイルバ(ILVA)製鉄所の閉鎖や交通量の削減などの達成は叶わなかった。連立政権の解消をも覚悟してTAV反対に固執したのも、全ては環境のためだった。今年初めには、昨年8月にシチリアで難民船の寄港を拒否し起訴されたサルビーニの免責を訴え、支持者たちの激しい反対に遭っている。
一方のサルビーニは、過激な反移民政策とキリスト教的価値観を掲げ、強力な指導者としてのイメージを確立。30年続く党の影響力を十分に発揮して、内閣にも支持勢力を構築した。彼の描くシナリオは、難民問題に苦しんでいた南部の民心や既存の右派勢力の支持を得ながら早期の解散総選挙で過半数を獲得し、首相に就任することだ。既成の右派勢力を率いるシルヴィオ・ベルルスコーニ元首相は、昨年の総選挙での惨敗を乗り越え、同盟との連結を窺わせている。
権力を得るために手を取り合った両党は、その権力のせいで袂を分かつこととなった。いま欧州全体が不安に襲われている。結末がどうであれ、イタリアに落ちたポピュリズムの影はこの先も続く見通しだ。
翻訳者:M.I