世界の自動車業界「構造調整の嵐」

-危機に備え事前の構造調整
-自動運転車・EV車への投資財源の確保
-フィアット・プジョーの様な合併も
世界の自動車業界にとって今年は大々的な構造調整に入った年となった。大規模な構造調整をもたらす程に自動車の売上が悪化している訳ではないが、2008年の世界金融危機当時、誤った対応で米国のGMと当時のクライスラーが破産に切迫し救済金融の支援を受けた教訓を生かし、事前の備えに動いているのだとみられる。
業績がしっかりしている状況でも、今後数年に渡り従業員数万人を解雇し、一部工場を閉鎖するなど経営のスリム化への動きが盛んになっている。イタリアと米国の合弁企業フィアット・クライスラー(FCA)とフランスのプジョー(PSA)は合併により危機を乗り越えるという決断を下した。
米経済チャンネルCNBCは現地時間24日、GM、フォード、ダイムラーなど世界の主要自動車企業が今年になって大規模な構造調整に入ったと、この様な構造調整は2020年代になっても続くだろうと報じた。
■金融危機を教訓に…最も積極的なGM
自動車業界の大々的な構造調整は2008年の金融危機以降に急激な景気沈滞を経験した教訓に基づく。2009年、GMとクライスラーは破産の危機に追い込まれた後、政府の救済金融により再建を果たしているだけに、今年の様に自動車販売と純益がしっかりしている状況でも事前の構造調整で嵐に備える動きなのだとみられる。
米自動車関連企業コックス・オートモーティブのアナリスト、ミシェル・クレブス氏は「自動車業界は2009年の景気沈滞当時、危機にしっかりとした準備が出来ておらず、今の経営陣はその当時を経験した人物」だと、「彼らは当時を正に昨日の様に覚えており、同じ失敗を繰り返さないとの意志を確固たるものにしている」と話した。
10年前に破産に追い込まれた事でなりふり構わぬ構造調整に入ったのとは違い、今年は自動運転車やEV車の様な新技術への投資財源を安定的に確保するための緻密な計画の中で構造調整が行なわれている。クレブス氏は「自動車業界は経済・自動車市場が鈍化し始めているとは言え、依然としてしっかりした状況下で構造調整を行なっている」と、「自動車市場のパイが小さくなっている事に備えている」と話している。
米国自動車販売は今年に続き来年も減少し、1700万台を下回るとみられており、今年の世界の自動車販売も金融危機以降で最も厳しい310万台の減少が見込まれている。
■投資財源確保のための構造調整
構造調整に最も積極的なのはGMだ。GMは既に昨年11月に大規模な構造調整計画を発表し、その大半が今年実際に行なわれた。従業員を1万4000人減らし、北米工場5ヶ所を含む全世界で7つの工場を閉鎖するという措置だ。GMはこれにより年間60億ドルの費用削減効果を見込んでいる。フォードも今年6月に大規模な構造調整計画を公開した。
これは来年までに主にヨーロッパのパートタイム労働者1万2000人を削減するというもの。これに先立つ5月には全世界の工場から正規従業員を7000人減らす決定をしている。またミシガン州のエンジン工場を閉鎖し、24ヶ所あるヨーロッパの工場の内、6ヶ所を閉鎖または売却するとしている。フォードはこの様な110億ドル規模の構造調整を2020年代序盤までに進める計画だ。
日本やドイツの自動車業界も例外ではない。メルセデス・ベンツのダイムラーは今年11月、今後3年の間に全世界で従業員1万人以上を減らすとしている。2022年までに14億ユーロを削減する計画だ。フォルクスワーゲンは傘下の高級車ブランド、アウディの大規模構造調整案を11月に決定した。2025年までに従業員の10.6%にあたる9500人を削減し、これにより費用支出60億ユーロを削減する計画だ。日産は今年7月、過去10年間で最大規模の構造調整案を発表した。2023年3月までに全世界で従業員1万2500人を削減し、生産能力も縮小して生産ラインの約10%を無くすとしている。日本3位のホンダも2月の構造調整計画を通じヨーロッパ内の工場の一部閉鎖と数千人の人員削減を発表している。
■合併で危機突破図る企業も
人員削減や工場閉鎖ではなく、合併によるシナジーで嵐に備えるプランもみられる。フィアット・クライスラーは今年中盤にルノーとの合併がフランス政府の反対により帳消しとなっていたが、今回はプジョーに接近し合併への同意を引き出した。先週、全額株式交換による1:1の合併に両社が合意した。合併を通じて変わりゆく環境に対処しなければならないとのセルジオ・マルキオンネ前フィアット・クライスラーCEOの遺志が実現した事になる。マルキオンネ氏は自身の志を遂げぬまま昨年8月に急死している。まだ細部事項は確定していないものの、両社は合併を通じ工場閉鎖をせずとも年間37億ユーロを削減出来ると期待している。
翻訳:水野卓
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