「国際原油価格暴騰・世界経済沈滞」…最悪のシナリオに向かうか

「国際原油価格暴騰・世界経済沈滞」…最悪のシナリオに向かうか
-イラン、英タンカー拿捕「一触即発」
-ヨーロッパ、イラン制裁案検討
-武力衝突時には原油市場への衝撃深刻
-大部分を輸入に頼る日・韓・印には影響大
「国際原油価格は最高で150ドルまで上昇し、世界経済は米国を含め沈滞に陥り、世界経済の脱石油化が加速する」
世界の原油海上輸送の3分の1を占めるホルムズ海峡が一触即発の危機に直面した事で考えられる最悪のシナリオだ。
イランが英船籍のタンカーを拿捕した事でイランと西側諸国との摩擦が高まる中、武力衝突にまで進めば原油市場にも深刻な衝撃波が訪れるとの憂慮の声がみられる。特に原油をほぼ全て輸入に頼り、大部分を中東から輸入している日本、韓国、インドが、この様な状況に最も影響を受ける事が予想される。
原油価格が上昇すれば、短期的にはLNG(液化天然ガス)価格が原油価格の上昇幅の2倍以上上昇するとの展望もみられる。
■イラン−英タンカー拿捕…ヨーロッパに衝撃
ブルームバーグ通信は20日、世界で最も重要な原油海上輸送ルートであるホルムズ海峡で緊張が高まっていると、専門家らの言葉を引用して報じた。これに先立つ今月19日、イラン革命守備隊が英国のタンカー「ステナ・インペロ」を国際海事ルール違反の容疑によりホルムズ海峡で拿捕したと、国営イラン通信が報じている。これに対し英国やヨーロッパでは強い反発とイランの資産凍結措置などを含む外交及び経済制裁案を検討中だ。
政治リスクコンサルティング企業のユーラシアグループ創業者イアン・ブレマー氏は、この地域で全面戦争が起きれば原油価格は一気に1バレル100ドルを超え、最高で150ドルまで上昇すると予想している。しかし戦争が起きたとしても局地戦に留まれば、原油価格は再び1バレル80ドル水準で落ち着くとの見通しだ。より楽観的な展望もみられるが、原油価格が上がるとの点に変わりは無い。
アメリカ・ヒューストンのライス大学エネルギー研究所のケン・メドロック専任ディレクターは、「戦争が勃発すれば直ぐに原油価格は100ドルまで上昇するが、同地域からの原油輸出がしっかりしている事が分かれば、再び80ドル台に戻る」と予想している。また、「米国のシェールガスが衝撃を和らげる事はあるだろうが、市場の混乱が完全に相殺される事は無い」と付け加えた。
サクソバンクの商品戦略責任者オーレ・ハンセン氏は、原油価格が90ドルまで上昇するとしながらも、「世界景気鈍化による需要鈍化の余波で原油価格は結局は崩壊する」との見通しだ。
■状況悪化時は原油価格150ドル、LNGは暴騰
原油より更に大きな衝撃を受けるのはLNGだと専門家らはみている。マッコーリー・キャピタルの石油ガスアナリストのデビッド・ヒューイット氏は、価格上昇幅が原油価格の2倍を上回るとの展望。同氏は「原油価格が上昇すれば、LNGの現物価格は(原油価格の上昇幅の)2倍は上昇する可能性が高い」と、「これは原油に比べ、LNGのホルムズ海峡運送比重が高いため」だと話した。
LNGの価格が一時的に上昇しても長くは持たないとの展望もみられる。1970年代にイラン政府のエネルギー諮問を歴任したエネルギーコンサルティング企業FGEのフェレイダン・フェシャラキ会長は、ホルムズ海峡での攻撃とそれに対する報復攻撃が勃発すれば、原油価格は90〜100ドルの範囲で動く様になるとしながらも、LNGへの衝撃は多少弱くなる可能性があるとの見方だ。同会長は、「LNG市場は現在過剰供給状態な上にイランと関係が良好なカタールが掌握している市場なので、イランがカタールを出港するガス運搬船を攻撃したり拿捕したりする可能性は低い」とみている。
ホルムズ海峡が戦争により封鎖されたり海上運送に深刻な問題が生じれば、最も大きな打撃を受けるのは日本、インド、韓国だとみられている。専門家らはこれら3ヶ国が中東地域の原油に大きく依存しており、主な輸送ルートが遮断されれば他の国に比べより影響を受けると指摘している。
■景気沈滞・脱石油化推進
専門家らはこの地域の戦争と原油価格上昇は世界経済に沈滞をもたらすとみている。サクソバンクのハンセン氏は原油価格が上昇すれば米国を含む全世界の経済が沈滞に陥ると警告している。
商品市場も激変が不可避となる。戦争による原油供給不安と安全資産である米ドルの需要拡大により、更なるドル高要因がふたつ同時に働く。銅などの産業用金属は景気下降による需要鈍化とドル高傾向が重なり暴落する。一方で安全資産である金はドル高傾向にあっても上昇する。
また長期的に見れば、原油価格上昇は世界経済の脱石油化を推進する事にもなる。FGEのフェシャラキ会長は「石油はむしろ10〜15年の間に消滅する事になるだろう」と、「(原油価格高騰は)この様な流れを加速させるだけ」だと話している。
翻訳︰水野卓
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