兵庫県内のアスベスト工場で勤務していた男性が、じん肺の健康被害を受けたとして国に損害賠償を求めた訴訟で、大阪高等裁判所が国に賠償を命じた控訴審判決が確定した。国が判決を不服として上告しなかったことが2日、明らかになった。上告期限は5月1日だった。
この訴訟の主な争点は「除斥期間」だった。損害賠償請求権が発生から20年で消滅する民法の規定に基づき、大阪地方裁判所は「除斥期間が過ぎている」として原告の訴えを退けていた。
しかし、大阪高裁は4月17日の控訴審判決で、「じん肺は特異な進行性疾患であり、損害が現実化したといえるのは被害が正式に認定された時点」とし、「除斥期間は経過していない」と判断。一審判決を取り消し、国に対して全額約600万円の賠償を命じていた。
原告の男性は1963年から1971年にかけて、石綿セメント管の製造に従事し、2000年に兵庫労働局からアスベストによるじん肺と認定された。2020年5月に国を提訴したが、同年6月に死亡。訴訟は遺族が引き継いでいた。
アスベスト被害をめぐっては、2014年に最高裁が国の賠償責任を認め、以降、国は和解に応じてきた。今回の原告も当初は和解条件を満たしていたが、国が「除斥期間」の起算点を「被害認定時」から「発症時」へと変更し、一審はその基準で請求を退けた。
原告遺族は、「提訴してから約5年、国の対応により不安な日々を過ごした」と語った。弁護団は、「国の上告断念は当然であり、制度を元に戻すべきだ。これまでの対応変更で泣き寝入りした人がいないか、国は早急に調査と救済を行うべきだ」と強調している。













Leave a Reply