カンヌ映画祭最高賞『パラサイト』レビュー…予測不能なサスペンスコメディ

カンヌ映画祭最高賞『パラサイト』レビュー…予測不能なサスペンスコメディ
ある貧しい家族が、大金持ちを相手に詐欺劇を繰り広げる。
名門大学に通う友人のツテを頼り、裕福な家で家庭教師として働くことになったギウ(チェ・ウシク)。妹のキジョン(パク・ソダム)、父のギテク(ソン・ガンホ)、母のチュンスク(チャン・ヘジン)らギウの家族が、次々と同じ家に就業する。家庭教師、運転手、家政婦…どれも貧しい者が富裕層の暮らしを垣間見ることができる職業だ。
有名な建築家が手掛けた庭園付きの大豪邸には、IT企業代表のパク社長(イ・ソンギュン)と教育熱心で純真な妻のヨンギョ(チョ・ヨソン)、そして愛らしい二人の子どもたちが住んでいる。彼らの生活は、一枚の絵画のように洗練され高級感が漂う。窓越しに酔っ払いの立ち小便が見えるギウの家、暗く湿った半地下の部屋とは対照的だ。
多くの志願者の中から採用を勝ち取ったギウ一家の日常に、ようやく光が差し込んだ。しかし喜びもつかの間、土砂降りの雨が降りつける夜、解雇された元家庭教師がパク社長邸を訪ねる場面からストーリーは大きく展開し、怒涛の悲喜劇の中へと観客を引き込んでいく。
前半部分は、ギウ一家が繰り広げる面白おかしい詐欺劇だ。過酷な環境にあってもほのぼのとした家族の日常、そして彼らの交わす会話が見る者の笑いを誘う。家族が共謀して企てる犯罪計画も、突飛でおかしく深刻さは微塵も感じられない。
そんな雰囲気が一変するのは、前述のように大雨の翌日からだ。ギウ一家が直面する予期せぬ状況と一連の騒ぎは、一見すると非現実的のようにも思える。しかし実際には現実と隣り合わせであるという事実に気付くだろう。そのため見ていると胸が締め付けられるように苦しく、またある時は涙が出そうになるほど悲しい。
そのディテールの細かさから、「ポンテール」の異名を取るポン・ジュンホ監督。今回の映画も、先の読めない展開や巧みなキャラクター設定、華麗な演出など期待を全く裏切らない。これまでの監督のどの作品よりも空間的な対比に重点を置いており、特にパク社長の豪邸が舞台となっているシーンは必見である。
随所に散りばめられたメタファーを探すのも楽しみの一つだ。例えば、ギウの家にある地下と地上を繋ぐ階段は、現代社会の垂直的秩序に対する暗喩として作用している。
また、この映画は嗅覚を非常に刺激する。産業革命以降、ブルジョワジーとプロレタリアートを区別していた時代の「貧困臭」が作品からは感じられる。

パク社長の末息子は、この臭いを本能的にかぎ分ける。表向きは紳士そのものだが「身分の低い人間が一線を超えることは許せない」というパク社長も、「地下鉄に乗ったときの臭いがする」とギテクを卑下する。この臭いが、最後に残ったギテクのプライドを傷つけることになるのだ。
悪意を持った人間はこの映画に一人も出てこない。それにも関わらず、状況は悲劇へと突き進む。悲喜こもごもの人間模様が複雑に絡まり合い、真っ逆さまに暗闇へと落ちていく。
映画のタイトル『パラサイト』(寄生虫)は、資本家に寄生して暮らすしかない多数の労働者、そして転落の一途をたどる韓国の社会構造を想起させる。もともと労働と資本は相互に交換されるべき価値だが、今日の社会において労働は安く使い捨てられ、資本は何もしなくてもその価値が上昇する。
家が浸水し避難所で一夜を過ごした翌日も、雇用主の電話一本でいつも通り出勤するギウの家族。パク社長の言葉を借りれば、人材は常に溢れておりいつでも交換することができるのだ。
『パラサイト』がカンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞を受賞した背景には、韓国だけではなく世界中の人々が共感できる資本主義社会の現実を、非常に正確に捉えているという点が挙げられる。
ポン・ジュノ監督『パラサイト』、カンヌ映画祭最高賞受賞…「面白くて不気味、そして辛辣」
この映画を見ていると、これまでに新聞の社会面を飾った記事たちが次々に思い浮かぶ。ホームレスから中流階級、自営業者、そして「恋愛」「結婚」「出産」「人間関係」「マイホーム」「夢」「就職」の7つを諦めたいわゆる「7放世代」まで。ギウはまさに、厳しい現実にあえぎ苦しむ「7放世代」の代表と言える。
ポン・ジュンホ監督は「鑑賞後にあらゆる感情が交錯する映画であってほしい。クスッと笑えたりぞくっとしたり悲しくなったり。そういった複雑な感情の中で、一杯飲もうという気になってもらえたら嬉しい」と語っている。
5月30日に韓国で初上映された『パラサイト』は日本でも公開される予定だ。
翻訳者:M.I